従業員の副業・兼業を認める場合のポイント

従来、従業員の副業・兼業は積極的には認めないというのが一般的な考えでしたが、現在、国は個人の所得増加や人口減少時代における人材確保等を目的として、兼業・副業の普及促進を図るなど、その考え方は変わってきています。

そのため、今まで原則、禁止としていた副業・兼業を従業員が急に希望してきた場合、企業として対応に迷うことが考えられます。

まず、副業・兼業を認めることのメリットや労務管理上の注意点を押さえた上で、どのようなケースであれば兼業を認めるのか自社のルールを決定し、申請があった場合にも、スムーズに対応できるようにしましょう。

 

 

判例でも労働者が労働時間以外の時間をどのように利用するかは、基本的には労働者の自由であるとし、労務提供上の支障となる場合、企業秘密が漏洩する場合、企業の名誉・信用を損なう行為や信頼関係を破壊する行為がある場合、競業により企業の利益を害する場合でなければ、副業・兼業を認める必要があります。

副業・兼業を認める場合の企業のメリット

副業・兼業を認めることで会社には下記のようなメリットがあります。

 

① 労働者が社内では得られない知識・スキルを獲得することができる。
② 労働者の自律性・自主性を促すことができる。
③ 優秀な人材の獲得・流出の防止ができ、競争力が向上する。
④ 労働者が社外から新たな知識・情報や人脈を入れることで、事業機会の拡大につながる。

副業・兼業を認める場合の注意点

副業・兼業をおこなう場合、長時間労働により、自社でのパフォーマンスが低下しないか、健康上、問題がないか留意する必要があります。

また、兼業先が同業者、競合である場合、副業により自社の機密情報が漏洩する恐れが無いか精査する必要があります。

従業員が副業・兼業を希望した場合、その内容を確認するため、「兼業申請書」の提出を求めることが可能ですが、必要以上の情報を求めることがないよう注意が必要です。

 

副業・兼業開始後も、会社の判断によりますが、下記のような状況が見受けられる場合には兼業を禁止することが可能です。

副業・兼業時の禁止・注意事項については、就業規則に明記し、周知しておきましょう。

 

□ 会社の施設、物品を勝手に利用している

□ 副業・兼業することにより、不当に利益や金品を得ている

□ 居眠りや必要以上に席を立つなど、職務に集中できていない

□ 兼業先で会社の名誉や信用を損なう行動をとっている

□ 兼業先で業務上知り得た機密情報を漏洩させている

□ 他社等の業務に従事することにより、健康状態が悪化している

労働時間の通算、割増賃金について

事業場が異なる場合でも、 労働時間は通算する必要があります。

そのため、副業・兼業をしている場合、従業員から副業・兼業先での労働時間を自己申告してもらう必要があります。

 

また、割増賃金については、会社Aで働いていた従業員が、次に会社Bと労働契約を締結し、労働時間を通算した結果、法定時間外労働に該当した場合、会社Bに法定の割増賃金を支払う義務があります。(後から契約を締結する事業主は、その労働者が他の事業場で労働していることを確認したうえで、契約を締結すべきとの考え方によるものです。)

労働契約を後に結ぶ会社となる場合は、法定時間外労働が多くなる可能性が高いため、36協定の締結、上限時間にも注意する必要があります。

 

 下記の例では、会社Aの後に労働契約を締結した会社Bで勤務した水曜日の2時間(法定の8時間超え)、土曜日の8時間(法定の週40時間超え)が法定時間外労働となり、割増賃金を支払う必要があります。

 

副業・兼業時の労働時間の通算、割増賃金

 

右記の例では、会社Aの後にB社と労働契約を締結した場合、会社Bで勤務した土曜日の8時間(法定の週40時間超え)が法定時間外労働となり、割増賃金を支払う必要があります。

雇用保険・社会保険の加入の必要はある?

従業員に雇用保険、社会保険が適用されるかは、事業所ごとの勤務時間、日数で判断します。複数の事業所で勤務する場合であっても、労働時間等を合算して考える必要はありません。

例えば会社Aで週10時間、会社Bで週15時間の勤務をする場合、雇用保険に加入できません。(2020年1月時点の情報であり、今後、要件が変わる場合があります。)

労災時の補償は?

兼業先の会社で被災した場合も、労働者として雇用されていれば、労災保険で治療を受けられるなど、給付の対象となりますが、休業補償、障害補償、遺族補償等の支給額には注意する必要があります。

つまり、労災保険は個別の事業主による災害補償責任を担保するものであるため、例えば、兼業先の会社Bで被災し、会社Aの勤務も休んだ場合でも、休業補償給付は、会社Bのみの賃金で給付日額が算定され、会社Aの賃金は加味されません。

副業・兼業時の労災保険給付